消化器疾患診療におけるパラダイムシフト： 第4次産業革命と20年後の消化器病学

2020年11月05日 06:55

技術革新をどのように生かし課題に対応するか

　AI、IoTを用いた放射線画像診断や内視鏡診断、病理診断、ゲノム解析といった技術の進展に伴い、遺伝子レベルで患者に対応するオーダーメイド医療（プレシジョン・メディシン）の提供が現実化しつつある。また、内視鏡下手術支援ロボットda Vinciの特許切れにより、国内外で新たな手術支援ロボットの開発が進んでいる。

　こうした技術革新の現状について、司会の田尻久雄氏は「まさに今、診療現場は転換期を迎えている」と話す。低価格ロボットが地域病院に普及することで、内視鏡的粘膜切除術（EMR）や内視鏡的粘膜下層剝離術（ESD）といった高難度の治療も、「ロボットを用いて遠隔で行う時代が来るかもしれない」と展望。「人間とAIやロボットのような新しい技術が融合すれば、より高い能力を発揮できる可能性がある」という。

　本セッションでは、そうした変革の時代における消化器疾患診療について、ビッグデータ時代における画像解析（喜連川優氏）および遺伝子検査パネル（河野隆志氏）に関する基調講演を皮切りに、多元計算解剖学とロボット支援診療（橋爪誠氏）、AIの医療への応用（斎藤豊氏、中田典生氏）をテーマとした演題で構成。大学が内視鏡ロボット（写真）の開発に積極的に関わる米国からのレポート（相原弘之氏）も交えながら、10〜20年後の消化器病学について検討する。

　一方、新たな技術革新によって生まれる倫理上の問題（寺井崇二氏）や、AIなどを用いても統計学的に対応不能な事象が発生した際に求められる医師の姿勢とコミュニケーション能力（三輪洋人氏）についても触れ、解決すべき課題を提起する予定だ。

予測困難な未来について考える契機となるセッションに

　これまで、ポリペクトミー、EMR、ESDと、消化器領域では15年程度の間隔で画期的な治療技術が登場し、治療の低侵襲化が進んできた。田尻氏は、今後も技術革新は進んでいくものの、新型コロナウイルス感染症流行拡大のように、本セッションの企画段階では全く予想できなかった事象も起こりうる点を指摘。「未来を予測することは非常に困難だ」と言う。

　しかし、高齢化の進展により消化器疾患の疾病構造がさらに変化することは明らかであり、技術革新を含め消化器疾患診療にも影響が及ぶことは明白である。同氏は「本セッションの位置づけとして、消化器疾患に携わる医師が未来に向けてどのように対応すべきか考える契機になれば」と期待する。また、「ウェブ配信の導入により時間の制約を受けず何度でも演題を視聴できることは、ハイブリッド開催の最大の利点。変化を恐れるのではなく、それによって起こるメリットを生かし、より積極的に学んでほしい」とメッセージを送っている。