抗ウイルス治療は肝硬変の予後をどこまで改善したか?
2021年11月06日 06:40
パネルディスカッション13 提案:日本消化器病学会
本日 9:00〜11:30 第7会場
司会 | 持田 智氏 埼玉医大・消化器内科・肝臓内科 |
清水 雅仁氏 岐阜大大学院・消化器内科学 | |
演者 | 田畑 優貴氏 大阪大大学院・消化器内科学 |
内木 隆文氏 岐阜市民病院・中央検査部 | |
川田 一仁氏 浜松医大・2内科 | |
樋口 麻友氏 武蔵野赤十字病院・消化器科 | |
長沖 祐子氏 広島大大学院・消化器・代謝内科学 | |
内田 義人氏 埼玉医大・消化器内科・肝臓内科 | |
黒松 亮子氏 久留米大・消化器内科 | |
北村 倫香氏 日本医大・消化器内科 | |
保坂 哲也氏 虎の門病院・肝臓センター | |
伊藤 隆徳氏 名古屋大・消化器内科 |
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)や核酸アナログ(NA)製剤の登場により、非代償性肝硬変患者に対しても抗ウイルス治療が可能となった。しかし、ウイルス排除がQOL向上を含む生命予後改善に果たす役割については不明な点が多く、抗ウイルス治療が発がん、食道・胃静脈瘤(EGV)、門脈圧亢進症などの発症リスクに及ぼす影響も検討が必要である。これら肝硬変診療における抗ウイルス治療のリスクとベネフィットを検討する本セッションでは、持田智氏と清水雅仁氏による司会の下、実臨床における10の検討結果が報告される。
SVR達成後の予後を多角的に検証
本セッションは、C型肝硬変に関する8演題とB型肝硬変に関する2演題で構成される。
C型肝硬変については、まず田畑優貴氏と内木隆文氏がDAA治療後の長期予後を検討した多施設共同研究の結果を報告。続いて持続的ウイルス陰性化(SVR)達成後の予後に関して、川田一仁氏が肝細胞がん以外の発がんリスクを、長沖祐子氏がEGV増悪に寄与する因子を、内田義人氏が門脈圧亢進症における門脈・体循環シャント閉塞の意義を、北村倫香氏が肝性浮腫に対する利尿薬の投与量に関する解析結果をそれぞれ報告する。特にEGVなどの門脈圧亢進症関連イベントについて、持田氏は「DAA治療後にむしろ悪化する症例が多い」と指摘。「シャントによる肝血流量低下が、肝機能改善の成否を分けるpoint of no returnの1つであると考えられている」と述べる(図)。
一方、黒松亮子氏は初発肝がんに対する根治治療を施行した後にDAA治療でSVRを達成した症例の予後を検討。他にも、肝生検に代わる非侵襲的なSVR後の肝線維化評価法としてMRエラストグラフィ(MRE)の有用性を検討した樋口麻友氏の報告も注目される。
終盤の2演題は、いずれもB型肝硬変について。保坂哲也氏と伊藤隆徳氏が、それぞれ自施設におけるNA治療後の予後規定因子や長期予後について報告する。
抗ウイルス治療が進展を見せる中、肝硬変の診療にはどのような課題が残されているのか。肝機能および予後改善を目指した治療戦略について、各演者から興味深い知見が披露される予定だ。
持田氏は「肝硬変はさまざまな病態が関与する複雑な疾患であり、全体像を捉えるのが難しい。そのため多面的な観点から解明する必要があり、多施設での大規模な検討が求められている」と指摘。その上で「抗ウイルス治療後における肝硬変の予後というテーマは学会の場で継続的に検討されており、年を重ねるごとに進歩している。本セッションで得た最先端の情報を自施設に持ち帰り、さらなる検討を進めてもらいたい」と聴講を呼びかけている。