臨床研究の支援体制と実施体制の強化
2023年11月03日 06:15
98名の医師が参考になったと回答
統合プログラム4(パネルディスカッション)
11月3日(金) 14:00~17:00 第6会場(ポートピアホテル南館 大輪田B)
竹原 徹郎氏
大阪大大学院・消化器内科学
掛地 吉弘氏
神戸大大学院・食道胃腸外科学
久津見 弘氏
明石市立市民病院
内田 大輔氏
岡山大病院・新医療研究開発センター
星野 伸晃氏
京都大・消化管外科
白鳥 義宗氏
名古屋大附属病院・メディカルITセンター
須江 聡一郎氏
横浜市立大附属病院・消化器内科
辰川 裕美子氏
広島大病院・広島臨床研究開発支援センター、広島大病院・消化器内科
前田 夏美氏
大阪公立大大学院・消化器内科学、南大阪病院・消化器科
野田 弘志氏
自治医大さいたま医療センター・一般・消化器外科
堀田 欣一氏
静岡がんセンター・内視鏡科
雨宮 健司氏
山梨県立中央病院・ゲノム解析センター
宮地 正彦氏
中東遠総合医療センター・外科
柿崎 暁氏
国立高崎総合医療センター・臨床研究部
倉橋 知英氏
大阪労災病院・消化器内科
臨床研究から生まれるエビデンスは、適正な医療の実施に不可欠である。一方、臨床研究を取り巻く環境はこの10年で大きく変わり、臨床研究法をはじめとするさまざまな法規制の下、科学的妥当性、倫理性・信頼性の確保が高いレベルで求められている。司会の竹原徹郎氏は「臨床研究の実施に伴う手続きに多大な労力が必要となっており、医師のみで実施するのは極めて困難な状況にある」と現状を分析する。そのため、各施設で臨床研究を支援する取り組みが行われているが、十分な成果を挙げたのだろうか。同氏は「本パネルディスカッションでは臨床研究中核病院、非中核病院それぞれの現状と課題が12施設から発表される。事例の共有を通じて、今後の方向性を模索する場にしたい」と多くの参加を呼びかけている。
各施設のAROでユニークな取り組み、臨床研究初学者を支援
現在、大学病院などの臨床研究中核病院(表)において、臨床研究支援の大きな役割を担うのがAcademic Research Organization(ARO)である。
内田大輔氏は岡山大学病院におけるAROの活動を紹介する。ARO教員が中心となってプロジェクトマネジメントを行う体制が構築されており、治療法や医療機器の開発を進めている。企業と共同で10件以上のプログラム医療機器開発を行っており、消化器領域においても複数の診断支援プログラムの開発が進行中だという。星野伸晃氏は多彩な役割を担う京都大学のAROのうち、特に臨床研究初学者の支援による研究の裾野拡大の取り組みに焦点を当てて発表する。臨床研究に関するよろず相談を受け付け、初学者の障壁となりうる事象の解決に努める試み「メンター医制度」の導入などユニークな活動が紹介される。
臨床研究の素材は、日々の診療の中で発生している。海外では電子カルテ上のリアルワールドデータ(RWD)を医療ビッグデータとして集約し、臨床試験に利用されているが、日本ではシステム整備が遅れている。白鳥義宗氏はこの課題に挑戦した名古屋大学病院の「RWDワンストップサービス」について報告する。2018年の臨床研究法施行後、研究責任医師は重大な責務を課せられており、AROとの連携は不可欠となっている。須江聡一郎氏は自身の経験を分析し、その実態と課題に迫る。辰川裕美子氏は、広島大学病院における臨床研究支援の実情を具体的に報告する。県内基幹病院との多施設共同研究の実施、薬学・工学など関連領域との連携推進の可能性を最大限に生かすためにも、支援体制の整備は急務との展望が示される。
表. 臨床研究中核病院一覧
(厚生労働省公式サイト)
非中核病院での臨床研究に高いハードル、いかに乗り越えるか
臨床研究非中核病院からも、現状と取り組みが発表される。市中病院でCommon diseaseの臨床研究を行うニーズが高まっている一方、臨床研究法施行後、市中病院で質の高い臨床研究を行うハードルは極めて高い。前田夏美氏は大学病院の臨床研究支援部門の支援を受けながら、市中病院主導で特定臨床研究を遂行した実績を報告する。野田弘志氏からは、非中核病院で臨床研究を実行する困難さが示される。年間約1,200件の消化器外科手術を実施する傍ら、10年で4件のランダム化比較試験を計画。うち2件を完遂し、結果をトップジャーナルに発表した同氏だが、特定臨床研究の実施には高いハードルが存在し、実施に至っていない。
臨床研究法導入後の減少が明らかに、いかに支援体制を拡充するか
堀田欣一氏は、臨床研究中核病院の指定を目指す静岡がんセンターの現状を報告する。臨床研究支援体制を整備し、内視鏡関連で特定臨床研究を含む10件ほどの臨床研究を実施しているが、財団や企業からの資金援助なしに行っているものもあるという。雨宮健司氏からは、都道府県がん診療連携拠点病院に指定されている山梨県立中央病院の取り組みが紹介される。同院はオンコマイン Dxを日本で初めて院内導入するなど、がんゲノム医療に力を入れているのが特徴。臨床研究の支援体制、実施体制を強化し、アウトプットを行っている。
地方病院が臨床研究を行う上でのハードルの1つが倫理問題への対応だ。宮地正彦氏は、クラウド上で診療情報などを患者と病院が共有するポケットカルテの有用性を示す。患者自身が個人情報を管理することでオプトインが容易となり、臨床研究の可能性が広がるとの見解が提示される。柿崎暁氏は、国立高崎総合医療センターにおける現状を発表。臨床研究法施行直後の2018年と2022年の比較では、臨床試験が125件から138件に増加したのに対し、臨床研究は315件から290件に減少した。新型コロナウイルス感染症が流行した2020~21年の減少が特に顕著だったという。倉橋知英氏からも大阪労災病院において臨床研究が減少している現状が示され、支援体制拡充の必要性が示される。
竹原氏は「臨床試験をめぐる問題は根深く、一朝一夕に解決できるものではない。施設によって事情も異なるが、本パネルディスカッションに参加しより有効な支援体制、実施体制につながるヒントを持ち帰ってほしい」と述べている。
第66回日本消化器病学会大会
[会長]坂本 直哉
北海道大学大学院 消化器内科学
第108回日本消化器内視鏡学会総会
[会長]矢作 直久
慶應義塾大学 腫瘍センター
第28回日本肝臓学会大会
[会長]四柳 宏
東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野
第22回日本消化器外科学会大会
[会長]堀口 明彦
藤田医科大学ばんたね病院 外科
第62回日本消化器がん検診学会大会
[会長]金岡 繁
浜松医療センター 消化器内科