消化器病学のパラダイムシフトを見据え、国際戦略の強化に注力

―昨今の消化器病学の進歩とJDDW 2020の位置付けについてお聞かせください。

下瀬川　近年、消化器病学の分野には技術革新の波が押し寄せています。人工知能（AI）を搭載した内視鏡画像診断システムが既に実用化しつつある他、人工多能性幹（iPS）細胞を利用した再生医療、クリニカルシーケンスを活用し個々の患者に最適化したがんゲノム医療など、科学技術の進歩と相まったパラダイムシフトが起きています。東京慈恵会医科大学先進内視鏡治療研究講座教授の田尻久雄先生とともに司会を務める統合プログラム「消化器疾患診療におけるパラダイムシフト：第4次産業革命と20年後の消化器病学」では、こうした技術革新が消化器疾患診療に及ぼす影響を展望する予定です。

　他にも最近の注目すべきトピックとして、腸内細菌叢研究の進展が挙げられます。統合プログラム「マイクロバイオータ（腸内細菌）と全身疾患」では、炎症性腸疾患（IBD）のような消化器疾患にとどまらず、全身性疾患と腸内細菌叢の関係を取り上げます。

―多くの外国人演者を招くなど、積極的に国際化を推進している意図について教えてください。

下瀬川　アジアでは既に、韓国消化器関連学会週間（KDDW）、台湾消化器関連学会週間（TDDW）における演題の大半が英語化されています。アジアの消化器病学は研究の最先端を担っており、そうした最新の知見を世界に向けて発信するには、国際化の推進が不可欠です。JDDW 2020では国際戦略を考慮し、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本肝臓学会、日本消化器外科学会の構成4学会による独自の企画としてStrategic International Sessionを設けました。

―学術的なセッション以外にも、JDDW特有の企画として「医療セミナー」「女性医師・研究者プログラム」が組まれています。

下瀬川　今年で20回目となる医療セミナーは「働き方改革への取り組み」をテーマに据えました。内視鏡を用いた診療に従事する消化器医は肉体労働的な側面があり、勤務時間の短縮などに向けた議論が必要です。女性医師・研究者プログラムでは、2018年4月に新専門医制度が始まったことを受け、消化器領域における女性医師のキャリアデザインを展望します。

―新型コロナウイルス感染症（COVID-19）拡大の影響により、開催形態が変更となりました。

下瀬川　本来は実地開催ができればよかったのですが、参加人数が2万人超と規模の大きい学会であることを考慮し、実地とウェブ配信を組み合わせたハイブリッド形式での開催を目指し準備を進めることになりました。なお、緊急の特別企画として「新型コロナ感染症と消化器診療」と題したセッションを実施し、内視鏡検査に際した感染対策など、消化器病学の立場からCOVID-19について議論します。

―最後に、参加者に向けてメッセージをお願いします。

下瀬川　COVID-19の流行拡大で日々の診療に苦慮される先生が多いかと思いますが、JDDWは消化器疾患に関するあらゆる領域に触れられる貴重な機会ですので、ぜひ参加していただきたいと思います。多数の皆様のご参加をお待ちしています。